2014/08/07

Jinmenusagi ロング・インタビュー後編「1番だって思えるから」

Jinmenusagiロング・インタビュー後編「1番だって思えるから」

文・構成/川島大地

デビュー以来、巧みなスキルと鋭い洞察力を持ったリリックでシーンを圧倒するも、
何かと謎な部分が多かったラッパー・Jinmenusagi(ジンメンウサギ)にロングインタビューを敢行。
後編では、彼が今までにリリースした3作「Self Ghost」「ME2!」「胎内」に込められたメッセージや、 彼のパーソナルな部分へと踏み込んでみた。


2014年2月22日、渋谷Milkywayにおいてのライブ


このインタビューでは割と深い部分まで触れたくて。
その、ウサギくんの道を表してる今までの3枚のアルバムがどういうものか教えてもらえる?

いいよ!


ありがとう。じゃあまずは1枚目から。「Self Ghost(セルフ・ゴースト)」について。
このアルバムにはどういうメッセージがあるのかな?

実はメッセージはそれほど無くて、芸術性のほうが高い。
自分が好きな音楽とか映画、漫画を比喩・暗喩・言葉遊びの要素として使ってる。
例えば「Xyz」は、松田優作主演の映画「野獣死すべし」についてラップしてる。
あとは・・・「Paradoxxx」って曲には、BEASTIE BOYSのリリックとか、
日本最初のギャングスタラップって言われてるGANG-O-VISIONのリリックの引用もある。
山岸涼子の漫画からの引用もあるし、終わりは「粗忽の釘」っていう落語からの引用でシメてる。



ごめん、正直いってほとんど分からないよ。好みが多彩だね。

まぁ俺も全部深く追ってるわけじゃないから・・・詰め込める要素を全て詰め込んで、悦に浸ってたんだよね。こういうのは、よくない。
リリカルコンテンツだけじゃなくて、ラップの発音的にも分かりづらいし。
分からないついでに言うと、「亜月裕の漫画の注みたく」ってリリックが全てを表してるかな。
昔の少女漫画家なんだけど、ギャグっぽいシーンでよくコマの外から注釈をつけてて、それがこのアルバムの俺のラップみたいなんだよね(笑)
「伊賀野カバ丸」とか読んでもらえば分かるよ。



このインタビューで初めて全貌が分かる人も多いだろうね。
「Self Ghost」聴いてたけど、そのへんはまるで分からなかったよ・・・。
そこから1年と経たずに発表された2ndアルバム「ME2!(ミートゥー)」ではどう?

さっきみたいな、”自分にしか分からないこと”ばかり言ってたのを反省して、分かりやすいストーリー展開を重視したリリックを書いて・・・ラップの発音も聴き取りやすくした。
そうしたことで人に何かを伝えるって面で成長できたね。
あと、このタイミングで憧れだったラッパーの人たちとも曲を作った。



TAKUMA THE GREAT氏とか、MINT氏のことかな?

あとDOTAMAさんも!このアルバムは本当に聴いてて面白いと思うよ。TAKUMAさんとは「ゾンビ化した人間で溢れる街」を舞台にラップしてるし、DOTAMAさんとは「隣人の騒音問題」についてラップしてる。MINTさんとは「死にたい」っていう言葉をもとにリリックを書いた。


ソロ曲だと「ネット依存症を治すために自分の指を切り落とした人」の曲もあったよね?
現代的なテーマからいきなりマッドな方向性に切り替わるのがすごくよかった。

ありがとう。
なんか、想像はしても実際にトライしないことって多いでしょ?

例えば目の前にいる知らない人を急にぶん殴ったらどうなるかみたいな。もしくは、ここから飛び降りたら死ぬかな?みたいな。そういうことを表現したかったってのもあるんだよね。陰と陽っていうか、正常と異常は常に表裏一体だってことを伝えてる。
それを知っておけば、精神的にも肉体的にも正常な状態を保てるし、
もし正常を逸脱しても戻ってくることが出来る。
・・・そういうメッセージは3rdにもあるかな。



なるほど。3rdアルバム「胎内(たいない/タイダイ/Tiedye)」はメッセージ性が強いアルバムだったね。

意識してそうしたのもあるけど、この年頃になってようやくちゃんとした人格が生まれた気がして・・・
その瞬間を切り取りたかった。



それも、成長したってこと?

いや、それまでは人格がなかった。本当に。Jinmenusagiじゃなくて個人的な話になるけど、愛が足りなかった。
親からもらう愛じゃなくて、自分が他人を愛せるかって話。
それまでの俺は、その場だけの喜怒哀楽にかなり左右されてて・・・情緒不安定でさ。
例え誰かを好きになっても、相手を本質的にとらえたりすることはしてなかったし、出来てなかった。



いきなりテーマが重いんだけど(笑) 今は誰か、愛してる人はいる?

いる。3rdに入ってる「ペガサスと猿」はその人についてラップした。
異性とろくな関係を形成してこなかったけど、その人と一緒になったおかげでものの見方がかなり変わった。・・・ってかこれ、ラップってより、内容的にメールなんだよね(笑)「うまいもん食おう」とか言ってるし。
でもメッセージを誰かに伝えるって意味においては最高の完成度を誇る曲だね。



(笑) ストレートでいい曲だよね。

こっぱずかしいけど評判よくて嬉しいよ。
ちなみに「ペガサスと猿」って、「どうぶつ占い」が由来なんだよね。



そうなの?!ちょっと前に流行ったよね「どうぶつ占い」。あれ、ウサギくんはどっち?

俺は猿。ウサギなのに。


(笑) 「胎内」の他の曲はどういうメッセージが篭ってるの?

簡潔だよ。「インターネットやめろ」。


簡潔すぎ!補足してよ。

俺は、インターネットってかなりのハードドラッグだと思ってるんだよね。
で、その良さにも悪さにも気付けてないのに、ただ受動的にやってる人の多さに辟易してて・・・それをテーマにしたのが「InterNETlude」、「Turn It Off Pt.2 feat.ハシシ」。
ネットのせいでマイナスな感情にばっかりフォーカスしてる人たちへのメッセージが、「Never Mind」。気にするなってこと。



確かにインターネットは良い部分も悪い部分もかなり極端だし、ドラッグって見解は理解できるよ。

それを気にするなって片付けるのは若干乱暴だけど、それがベストな気がするんだよね。
他は他、自分は自分、って考えでいい気がするんだよ。
ネットには、必要な情報もそうじゃない情報も、とにかくなんでも溢れてるから、求めてなくても色んな感情が飛び込んでくる。
意識して自分を保たないと流されちゃって、どんどん頭がおかしくなる。
さっき言ったみたいに、俺が「その場だけの喜怒哀楽」に左右されてたのは、そういうのも原因。
このアルバムをほぼ全面的にプロデュースしてくれたDubbyMapleも同じ考え方を持ってて。



「胎内」は、DubbyMapleとのタッグだよね?

うん。DubbyMapleとGhostCheek(※Jinmenusagiのビートメイカー名義)で#Pr0st8(プロステイト)
ってプロジェクトもやってるよ。
1991年生まれで同い年、ビートとラップ両方やる、ファッションに興味があるとか、共通点が多くて、一緒にいると楽しいからね。



なるほどね。
・・・さて、ここまでは主に作品や来歴について喋ってもらったね。
これでウサギくんがどういう人なのか、読んだ人に分かってもらえるといいんだけど。

たぶんみんなそこまで興味ないと思う。


いやいや(笑) ここからはもっとパーソナルなことを聞きたいんだけど、いいかな?

いいよ。


人生において後悔してることは?

それが一発目なの?(笑)
んー、言わなくていいことを言わなくていいタイミングで言っちゃうことが多くて、いつも後から気付いて反省してる。このインタビューでもたぶん8個くらいあるね。



悩みはある?

寝付けない、起きても眠気が取れるまでに時間がかかる。
自分の考えてることが人に理解されないことが多い。



今一番欲しいものは?

自転車と服。


好きなファッションブランドは?

色々あるけどThrasherとVANSに落ち着くかな。スケートファッションが好き!
それと、Happysocksもいいね。靴下のブランドなんだけど、すごい派手な柄とかいっぱいあって。
あとImaginary Foundation、Pimpalicious Livingも好き。



これ一番聞きたかったんだけど、Soundcloudにアップされてるビートジャックもので、
「俺はナイキは履かない」って曲あるよね。今日はVANS履いてるけど、本当にナイキは履かないの?

よく聞かれるけど、履かない。


それはなんで?

新しいのが出るたび皆早朝から行列作って買ったりするでしょ。
でもそれってだいたい、オシャレより転売が目的じゃん。本末転倒でしょ。



ブランドとしてじゃなく、周りを取り巻く出来事が嫌いなんだ? デザイン的にはどうなの?

AIR MAX90と95、JORDAN11がカッコいいと思う。あとFOAMPOSITE PROも。
ただ嫌うだけだと底が浅いから、ナイキについてよく知っておこうと思って、ジョーダンとかエアマックスシリーズについて調べてたんだよね。そしたら普通にイカしてて・・・(笑)



じゃあこれから履く可能性もあるかな?

自分で自分の言ったことを守れないのはダサいけど、3%くらいは有り得る。


それが聞けたのが一番面白いよ。同じくビートジャックもので”Versace”のRemixをやってるけど、
そこではSupremeが嫌いって言ってるよね。

いやぁアレはダメだね。


ダメって(笑)

Supが好きな人まで否定する気はないよ。でも年々妙ちきりんなデザインに拍車がかかってくし、
向こうで2~3000円のペラいTシャツが輸入されてきた瞬間に1万とかになってるの、俺には理解できない。
ファッションは好きだけど普通の感覚を失いたくない。最近は白の無地Tよく着てるよ。



理解できないファッション、他にはある?

もうあんまりいないけどキャップ女子とかいうの。BOY LONDONのキャップのパチモノを被ってる人がダメだった。あと原色系のビーニーを被ってる人。


なるほど。ウサギくんってかなり好き嫌いがハッキリしてるよね。
それは音楽に関してもそうなの?

そうだね。


ヒップホップだと、どういうサウンドが好き?

前まではトリルウェーブが好きだったけど、最近は、サンプリングで作られたビートって
やっぱり良いなって思えるようになってきた。
なんでかっていうと、いわゆる「最先端のサウンド」とかって、主にアメリカとかヨーロッパ、外国のものを指すでしょ。
日本で音楽をやるうえでそこをフォローしてもほとんど意味ないことに気付いたから。
いきなりパクってこれが最先端だって言ってもみんな理解できない。それは自分も含めてね。
だったら、既に確立されてるおなじみのやり方にのっとってやったほうが浸透しやすいかなって。
特にこの日本語ラップってマーケットではね。



すごく細かく考察してるね。

そうでもないよ。多分思い込みが激しいだけ。
加えて言うと、俺、アルバムについて話すとき散々技術面がどうとか言ってたでしょ?あれも実は大して意味ないんだよね。
ラップスキルって、ある程度を超えた時点でリスナーの人には判別つかないんだよ。これは見下したりしてるわけじゃなくて本当に。
現在進行形でスキルを磨いてる人同士でも伝わらない、分からないこともある。
だから、最近はそういう不確定な要素よりも、本当に伝えたいことをリリックに込めるようにしてる。
ハートとメッセージが大事。



なるほど。今好きなアーティストは?

Flatbush ZombiesとThe Underachievers、この2組がすごい好き。
ラッパー単位でいうとFlatbush ZombiesはMeechy Darko、The UnderachieversはAKが好き。
Meechy Darkoはイルで、AKはテクニカル。すごく参考にしてる。
A$AP RockyとKendrick Lamarも好きだったんだけど、なんか飽きた。



Mecchy Darko(ミーチ・ダーコ)

AK(エーケイ)

やっぱりUSのアーティストは好き?

うん。でも後から気付いたけど、USでも西より東のが好きみたい。さっき挙げた2組もブルックリンだし。
イギリスのラップも好きだね。同じ英語でもアクセントがアメリカよりヨーロッパっぽくて独特。
それと韓国のヒップホップも最近好き。OkasianとかReddyとか、Kid Ashもいいね。


日本のアーティストではどう?

(食い気味に)MOMENT。発信してるメッセージはあいつしか出せないものだし、
この前初めてライブ見たんだけど、巧すぎ。同い歳なのが信じらんないね・・・あと、もうやめちゃったけどYAMANEさん。あの声はまさに唯一無二ってかんじ。顔もカッコいいし文句つけるとこない。
最近よく聴いてるのだとstillichimiya。USコンプレックスの全くない、ピュアな日本人のヒップホップ。
それとLowPass、あれはひとつの完成形だよね。ビートもラップもテクニックとアートの塊。
あーでも・・・散々言ったあとでアレだけど、日本語ラップそこまで追ってないかもしれない。
平均的な技術は上がってきてるかもしれないけど、ラップの内容が面白い人って少ないし。
だからこそ、不満を感じる部分は自分で補おうと思ってる。それが自分の活動。



じゃあ、これが最後の質問。ウサギくんがそこまでしてラップにこだわる、続けられる理由は何?

自分が1番だって思えるから。



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